腰痛と離職意図との関連には、統計的有意差を認めている。(中野千香子;急性期一般病院における看護職員の腰痛・頸肩腕実態調査.医療労働:2013:563:11-18 より)
こんにちは。S所長です。
「看護師として目標の年齢まで働きたいけど、体が持つか心配」「職務上、看護師さんへ腰痛予防の支援が必要だけど、何から手を付けたらいいか分からない」と悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、腰痛予防の観点から看護師さんの『労働寿命』を延ばす方法について解説したいと思います。

この記事は次のような方に読んでほしいです。
・看護師として定年まで働きたい人
・現場で働く看護師のサポートをしたい人
腰に負担のかかる動作とは
「腰」と一口に言っても、腰を構成する要素は山ほどあります(椎体、椎間板、椎間関節靭帯、筋肉、神経etc…)。
その中でも、「椎間板」への負担は看護師さんの業務内容を考えると特に大きいと考えています。
「椎間板」は腰の衝撃を吸収するクッションの役割を担っていて、腰に重さが加わっている時・丸まっている時に椎間板への圧力が強くなります。この状態を続けていくと、椎間板は徐々に潰れていってしまいます。例えば、買ったばかりの座布団は柔らかいのに、ずっと使っていると段々と薄くなってしまいますよね。ずっと押しつぶされることで、本来のクッション性が失われていくのです。
ここまでのお話を踏まえた上で、これから解説していく「腰に負担のかかる動作」を知ることで、
のポイントが見えてきます。
それでは、どのような動作が問題となるのか見ていきましょう。
①前かがみ/持ち上げ
前かがみや持ち上げ動作は腰痛の新規発生に関連すると言われています。(独立行政法人労働者健康福祉機構:勤労者の腰痛の実態(第2報),2008.より)
この報告の裏付けとなる理論が、スウェーデンの整形外科医ナッケムソン博士の行った研究で、姿勢の変化による椎間板の内圧変化を調べた物です。
この研究によると、立っている時を100とすると座っているのみでも140、そこから前かがみになっていくと185、立位での持ち上げ動作では220の圧力が椎間板に加わることを示しています。
NACHEMSON A :THE LUMBAR SPAIN.AN ORTHOPAEDIC CHALLENGE.SPAIN 1:59-71,1976
②ひねり
ひねり動作は腰痛の新規発生に関連すると言われています。(独立行政法人労働者健康福祉機構:勤労者の腰痛の実態(第2報),2008.より)
椎間板は縦方向の圧力には強い一方で、「曲げ」や「ひねり」には比較的弱い性質があると言われています。
体を曲げた状態でのひねりは、椎間板をすり潰すような力が加わる。そんなイメージを持っていただくと理解しやすいかもしれません。
看護と腰痛の関係
移乗介助
前かがみ姿勢で抱え上げたり、腰をひねったりして行うことが多く、腰に負担がかかりやすくなります。
入浴介助
着替えや洗体時に前かがみや中腰、腰のひねりなどが生じ、腰に負担がかかりやすくなります。
トイレ介助
下衣の着脱介助などで前かがみや腰のひねりが生じると、腰に負担がかかります。
オムツ交換
前かがみや腰のひねりを強いられ、腰に負担がかかります。
体位交換
前かがみや腰のひねりを強いられ、腰に負担がかかります。
からだの使い方
原則として、以下の2点を意識しましょう。
・前かがみを避けること。
・上半身のひねりを避けること。

一見前かがみであっても、腰椎の「生理的前弯*」を保つことで腰への負担は軽減されます。
*腰椎の生理的前弯
移乗介助
①持ち上げず引くように行うことで、腰に加わる重さ自体を軽減する。
②対象者に対して45°の位置で行い、腰のひねりを軽減する。
入浴介助
①片膝立ちで腰を伸ばした状態で行うことで、生理的前弯を保持する。
②なるべく正面で作業し、腰のひねりを軽減する。
トイレ介助
①片膝立ちで腰を伸ばした状態で行うことで、生理的前弯を保持する。
②なるべく正面で作業し、腰のひねりを軽減する。
オムツ交換
①ベッドに片膝を乗せ、両下肢を前後に開くことで生理的前弯を保持する。
②なるべく正面で作業し、腰のひねりを軽減する。
環境整備のポイント
からだの使い方同様、以下の2点を意識した環境を心がけましょう。
・前かがみを軽減すること。
・腰のひねりを軽減すること。
移乗介助
①手すりを使用してもらい、介助者の腰に加わる重みを減らす。
②広いスペースを確保し、腰に加わる不自然なひねりを軽減する。
入浴介助
①膝をついてもよいズボンを着用すると、片膝立ちを取ることができ生理的前弯の保持が可能となる。
②広いスペースを確保し、腰に加わる不自然なひねりを軽減する。
トイレ介助
①片膝立ち(膝は床から浮かせた状態)をためらわないよう、清潔に保つ。
②広いスペースを確保し、腰に加わる不自然なひねりを軽減する。
オムツ交換
高さ調節が可能なベッドを使用し、前かがみの軽減を図る。
体位交換
①壁とベッドの間に人が入れるスペースを確保し、二人で行う。
②高さ調節が可能なベッドを使用し、前かがみの軽減を図る。
ストレッチ
腹直筋
腹直筋はお腹の正面にある大きな筋肉で、主な作用は上半身を丸めることです。腹直筋が硬くなると、極端な話、腰が常に丸まった格好となり、結果として椎間板への負担が大きくなってしまいます。

腹直筋の硬さは椎間板の負担に直結します!ストレッチはこのような方法などがあります。
梨状筋
梨状筋はお尻の奥にある小さい筋肉で、主な作用は股関節を外旋させることです。梨状筋が硬くなると、股関節のひねりが制限され、その代償として腰でひねる必要が生じます。

梨状筋の硬さは椎間板へひねりストレスに繋がります!ストレッチはこんな方法などがあります。
筋トレ
体幹のインナーマッスル
体幹のインナーマッスル(腹横筋、多裂筋)は、腰椎の生理的前弯を保つために必要な筋肉です。

腰痛患者ではこの筋肉の機能が低下している、という報告があります!腰痛予防には欠かせない、とても重要な筋肉です。
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